閉塞した空間、限られた登場人物で繰り広げられる熱いドラマ「密室劇」。その特性から、秀逸な脚本からなる舞台劇を原作にしている場合が多いが、映画独自の緻密なカット割り、自在なカメラアングルといった映像的処理を駆使して、舞台劇とはまた趣きの違った密度の濃いドラマを創り上げている。
映画史に残る「密室劇」そのベスト作品は…!
(※どこまでが密室劇か、という判断基準は非常にあいまいですが、今回は、収容所物、潜水艦物、ホラーハウス物は選外とさせていただきました。)
まずは、番外から…
●CUBE
1999年、カナダの無名監督、ヴィンチェンゾ・ナタリ監督作品。鋼鉄の立方体の箱に閉じ込められた男女6人の脱出劇。低予算を逆手にとったアイディアに溢れた逸品。DVD特典映像の20分のサスペンス短編作「ELEVATED」も見逃せない。
●デストラップ/死の罠
シドニー・ルメット監督作品(1982年)、アイラ・レヴィン原作による舞台劇の映画化。落ち目の劇作家(マイケル・ケイン)は、ヒット間違い無しと思われる教え子の優れた台本を、自分のものにしようと計画をたてるが…。ホモ役のクリストファ−・リーブを含め、主要登場人物は4人。二転三転するドラマ展開は見事だが、ラストにもう一工夫…という感じであった。
●死と処女
ロマン・ポランスキー監督作品(1994年)、アリエル・ドーフマン原作による舞台劇の映画化。
独裁政権下、誘拐され拷問・レイプを受けた元反政府学生運動の闘志だった人妻、その拷問を行った張本人と思われる医者、その両者の狭間で動揺する夫。この三人による一軒家での一夜を描くサスペンス・スリラー。復讐か、無実か、揺れ動く真実…。ミステリーというよりはサスペンス色の強い内容でもある。
●救命艇
※国内盤LD未リリース。
ヒッチコック監督作品(1944年)。第2次大戦中、ドイツ軍により撃沈された貨物船。運良く助かった9人と赤ちゃんは、救命艇(ライフボート)に乗り、海をさまよう事となった。
この救命艇という限定された空間、いわば室内劇で物語は進行していくが、極限状態の中、したたかなドイツ軍人によって不協和音が生じはじめる。
水平線と海の映像をバックスクリーンに投影し、その前の大きなプールに浮かべた救命艇で人物が演技するといったリア・プロジェクション・エフェクツ方法を採用。ヒッチコックは、遂に一度もこの映画を海で撮影する事はなかった。そして、お約束のヒッチコック登場は…?
●レザボア・ドックス
タランティーノ監督デビュー作品(1991年)。宝石強盗に失敗した8人。命からがら逃げ出した4人と首謀者2人が、あらかじめ決めてあったアジトに次々と戻ってきた…。裏切り者は誰だ!
回想シーンを巧みに盛り込んだ場面数の少ない一種の室内劇であるが、キャラクターのはじけ具合と、斬新な演出が映画を際立たせている。
●天国と地獄
もちろん黒澤明監督作品(1963年)。冒頭から1時間余りの密室劇はいやがうえにもサスペンスを盛り上げる。誘拐犯との電話でのかけ引き、困惑・狼狽する被害者権藤の心理状態を閉塞した室内劇で見せる圧迫感は見事。さらに、特急「こだま」での現金受け渡しというスケールの大きな、次の見せ場を最大限に際立たせる伏線にもなっている。
そして、いよいよベスト5!
●第5位 「ロープ」(→ジャケットはここをクリック)
ヒッチコック監督作品(1948年)、パトリック・ハミルトン原作による舞台劇の映画化。室内劇もさる事ながら、クレジットタイトル以外の本編は驚異のワンカット撮影。そして映画の進行時間そのままの80分というドラマ展開も見もの。ヒッチコックお得意のカット割りによるテンポの良い演出が見られないので、若干中だるみするも「密室劇」映画としては特筆すべき作品である。
●第4位
「ダイヤルMを廻せ!」(→ジャケットはここをクリック)
こちらもヒッチコック監督作品(1954年)、フレデリック・ノット原作による舞台劇の映画化。元は3D/立体映画で、VHD方式のディスクでは立体映画で発売されていた。ほぼアパートの一室で繰り広げられる完全犯罪、謎解きミステリー物の傑作。失敗に終わった完全犯罪から、さらに完全犯罪を企むという2重仕掛けの構成と、電話・鍵といった小道具が効果的な逸品。
●第3位
「探偵/スルース」
ジョゼフ・マンキーウィッツ監督作品(1972年)、アンソニー・シェーファー原作による舞台劇の映画化。国内ビデオ発売(字幕スーパー)のみ、国内盤LD未リリース。
登場人物は、最初から最後までたったの二人。探偵作家(ローレンス・オリヴィエ)と、屋敷に招かれた妻の浮気相手の美容師(マイケル・ケイン)が繰り広げる二転三転のミステリー映画。ネタばれ厳禁…
ミステリーファンにはたまらない映画だ。
●第2位
「12人の優しい日本人」(→ジャケットはここをクリック)
三谷幸喜脚本/中原俊監督作品(1991年)、「東京サンシャインボーイズ」上演(1990年)による舞台劇の映画化。激論コメディと言われているが、コメディでは無い。たたみかけるセリフの応酬はまさに会話の格闘技!
LDジャケット・解説書にも記載されているが、本作に登場する12人のいかにもな日本人的キャラクターは、実に事細かい性格設定がなされていたとの事。
密室劇の場合、登場人物の丁々発止のかけ引きが重要。逆をいえば、キャラクターがしっかりしていれば、後はそのキャラクターが勝手に動き回り、面白い脚本ができあがるという事でもある。…といっても、それが難しい事なのだが、いとも簡単にやってしまう(ようにみえる)脚本家、三谷幸喜はやはり天才だ。
中原俊監督のカメラアングル、緻密なカット割りも見逃せない。
※大きな括りで捉えれば、あの名作「七人の侍」(1954年)も農村という密室劇であるが、登場人物のキャラクター設定はやはりノート1册にビッシリと書きこまれていたという。
そして「12人の優しい日本人」とくれば、第1位は…!
●第1位 「十二人の怒れる男」(リメイク版:十二人の怒れる男/評決の行方)(→ジャケットはここをクリック)
シドニー・ルメット監督、レジナルド・ローズ脚本、ヘンリー・フォンダ製作・主演作品(1957年)。密室劇、法廷劇、推理劇としても、その映画史に名を残す、もはや説明不要の傑作。しかし、この傑作もアメリカでの初公開時は上映館を拡大し過ぎた為、1週間で打ち切りになったという信じられないエピソードも残っている。日本語吹替収録DVD発売中!(初めて観たのが、淀川さんの「日曜洋画劇場」でした…)
リメイク版「十二人の怒れる男/評決の行方」はウィリアム・フリードキン監督作品。1997年8月17日、アメリカMGM系で放映されたTVムービー。
ヘンリー・フォンダの「陪審員8番」の役をジャック・レモン、最後まで有罪を主張するリー・J・コップの「陪審員3番」の役をジョージ・C・スコットが演じているが、どちらもちょっとおじいさん過ぎ…。内容的にはリメイク作品という以外何ものでもない作品だが、こちらの方がより原作に忠実との事。
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という事で輝く「密室劇」第1位は「十二人の怒れる男」。
「密室劇」はサスペンス・ミステリーの傑作・秀作揃い。何度も見返して、映画に散りばめられた伏線を探すのも楽しい。まさにDVD/LD向きの映画なのである。
※まだまだ未見作品もありますが、そこはあくまでも個人的見解という事でご容赦ください。 |