ガス人間第1号 (2009.11.08)
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月給2万円でどうかね…?
一種の人間ドックのようなもの、痛くも痒くもないから。

宇宙開発の一環として、人間の肉体をどんなショックにも高熱にも耐えられるように細胞から改造し、不死身の肉体を造ろうとした佐野博士。
航空自衛隊のパイロットを目指すも夢やぶれ、今では図書館で働く事務員の水野は、この高くも安くもない手頃な報酬に妙な安心感をいだき、マッドサイエンティスト佐野の人体実験の犠牲となってしまう。

(※月給2万円:1960年当時大卒初任給の平均が1万3千円ほど)

240時間の眠りの後に待っていたものは絶望と希望だった。
降りしきる雨の中を青白く発光しながら歩く、ガス人間と化した水野。
「しめた、生きてるぞ…」
ある種の精神統一により、ガス状にも普通の人間にもなれる事に気づいた水野は不気味に笑うのだった。
1960年12月11日公開東宝作品 「ガス人間第1号」(※「第」は旧字)

→途中は「変身人間物に人間の愛と本質を見た…」コラムをどうぞ

社会から消え去る定めにある事を悟っていた藤千代と、社会からはじきだされた者同士が愛し合い生き抜く事こそ運命と考えた水野。
春日流日舞の発表会場。意味深な演題目「情鬼」を舞い終わった藤千代の頬をつたう涙。
藤千代は水野と抱き合いながら、無色無臭のUMガスが充満する中、そっとライターに火をつける。

水野の愛に対する藤千代の想い。
それは、愛ではなくやはり同情と哀れみに過ぎなかったのだろうか…
炎上する会場から、ズルズルと這いずりながら逃げようとするガス人間、水野。
人間である事も許されず、運命と想っていた女からも見捨てられてしまった水野のその手には、それでも藤千代の着物が強く握り締められていた…
異形の物、水野の心の叫びが胸を打つ。

人間の悲しい運命と性を描いた脚本は木村武(のちの馬淵薫)。この作風は、より怪奇エンターテイメント色を強めた「マタンゴ」(1963年)、「フランケンシュタイン対地底怪獣」(→詳細はこちら)へと受け継がれていく。

屈折した水野の復讐心と、冷たさと情念のこもった藤千代のキャラクター設定。この両者の極めて特異なキャラクター設定が本作の大きな魅力。 そして、水野と藤千代のいきさつなど、ことさらに状況を説明しようとせず、結果的に神秘的でミステリアスな雰囲気を際立たせた本多演出。

人間がガス化する描写、爆破炎上する発表会場のミニチュアセットなど、今となっては多少の古臭さは否めないものの、あくまでも本編ドラマを盛り上げるための特撮に徹した円谷英二。
目指したものは、本編と特撮の違和感なき融合。「ガス人間第1号」は、東宝変身人間シリーズが到達したひとつの頂点ともいえる作品となった。
また、「ガス人間第1号」製作以前、アメリカでも「原子人間」(1956年)、「縮みゆく人間」(1957年)、「ハエ男の恐怖」(1958年)等、変身人間やミュータントを扱った映画があるが、 ハリウッド映画「X-メン」(2000年、アメコミは1963年)で見られたミュータントの人間社会への挑戦、共存というテーマ(※)をすでに取り上げている点でも注目に値する。
(※ミュータントと通常の人間の争いは、アメリカにおける社会的少数者への偏見や差別の暗喩といわれている)

青白く光りながら、正体を現すガス人間。T-1000型ターミネーターばりの鉄格子すり抜けを見せるなど、独特の趣がある職人技、円谷特撮は必見。
マッドサイエンティスト、佐野博士の研究所のシーンでは画面をわざと傾け、バランスの狂った佐野博士の精神構造をあらわすなど印象深いシーンも多い。
※本文章はギャラリーコラムの関連文章を、一部修正・加筆・編集したものです。

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LD GALLERY
●国内初盤LD
1992年6月1日 東宝<TLL2382>
オリジナル版 シネスコサイズ収録
−サイドA 50分40秒収録
−サイドB 40分35秒収録(※本編のみ実測)
・チャプター付
・劇場予告篇収録
・解説書封入
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DVD GALLERY
●国内初盤DVD
ジュエルケース版
2002年1月25日 東宝<TDV2635D>

シネスコ・スクイーズ収録、91分09秒オリジナル版
音声:日本語モノラル(オリジナル)/日本語2001Remix(5.1ch)/BGMトラック(モノラル)/オーディオコメンタリー春日藤千代役・八千草薫収録(ステレオ)
字幕:未収録
オールカラー16P解説書封入

オーディオコメンタリーは八千草薫。進行役の思い込みが強いのか、会話のかみ合わない部分もあるが、何故藤千代は盗んだお金だとわかっても発表会を開こうとしたのか、果たして藤千代は水野を愛していたのか… など、本多猪四郎監督演出のもと八千草薫がどういう想いで藤千代役を演じていたのかを語るコメントは、非常に興味深い。
「怪獣大戦争」国内盤DVD収録の土屋嘉男のオーディオコメンタリーでも「ガス人間第1号」について語られているが、ぜひ合わせて聞きたいコメンタリーだ。

■映像特典
・劇場用予告篇 ※スクイーズ版(2分28秒)
・「東宝特撮映画小道具大図鑑/戦争映画編」 ※総監督・川北紘一(36分09秒)
・劇場用カラースチール ※8枚収録(静止画)
・東宝俳優名鑑 ※静止画像にてキャスト56人紹介

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●国内再発盤DVD
トールケース版
2007年2月23日 東宝<TDV17010D>
トールケース再発版。ジュエルケース版と映像内容、ピクチャーディスクデザインともに同じ。
ジュエルケース版に封入されていたオールカラー16ページ解説書は未封入だが、チャプターを記載したペラ解説書付。
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●UNA NUBE DI TERRORE
[SPECIAL EDITION]
イタリア盤DVD
2011年10月18日
SINISTER FILM<PSV6063>
PAL方式・コード2 チャプターメニュー付 シネスコ・スクイーズ収録。
東宝DVDマスターをそのまま流用した国内公開版のみ収録(※海外版未収録)、本編オリジナル87分32秒版(※早回し版)。
−イタリア語吹替音声2.0ch・日本語音声2.0ch収録
−イタリア語字幕収録(ON・OFF可)

※現存するイタリア語吹替音声(劇場公開版?)を使用しているようで、吹替音声の存在しないシーンは日本語音声、イタリア語字幕となる。

■特典映像
−フォトギャラリー(海外版ロビーカード、海外版ポスター、宣伝用スチール等16枚収録)
−イタリアのSF・ホラー監督・脚本家Luigi Cozziによる作品紹介映像(3分23秒)


■ジャケット見開き縦サイズ 米国公開版ミニポスター封入
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VHS GALLERY
●THE HUMAN VAPOR
ガス人間第1号/海外版
米国版VHSビデオ VIDEO GEMS 
1985年<VG5055>

ハードケース付のVHSビデオで、さらにキャラメル箱に封入。主にアメリカのレンタルビデオ向きの商品と思われる。
海外版はLD、DVDとも未発売。

海外版タイトルは「THE HUMAN VAPOR」。蒸気あるいは霧人間。本編約82分。
トリミングテレビサイズ収録 英語吹替音声版。

海外版本編は、ガス人間との対談を企画した東都新報社に水野が現れ、ガス人間となってしまったいきさつを語るシーンから始まる。
オリジナル版との大きな違いは、冒頭でガス人間の正体を明かしてしまう事で、以後、再び東都新報社のシーンに戻る約60分の間は、水野の回想形式、モノローグで物語は展開していく。

回想シーンの流れは、途中かなりカットされてはいるものの、ほぼオリジナル版と同じ。
そして、いつもの海外版のように、
所々にフィルムライブラリーからの流用と思われる日本らしい風景(東京の街並や空撮)、日本の警察を舞台とした謎のフィルムが挿入されていく。(※わずか数秒のシーンだが下記上段右2枚の画像参照、情報求む)
また、日本の新聞記事も英語版の記事に差替えられている。

回想が終わり、水野が東都新報社を抜け出した後、クライマックスの藤千代の日舞発表会のシーンまで駆け足となるが、ここもほぼオリジナル版と同じ流れとなる。

夜叉面の美女、エキゾチックな日本舞踊が奏でる東洋の神秘は海外で大いに受けたのだが、藤千代の日本舞踊のバックにかかる音楽が、“酒は飲〜めえ、飲〜めえ”の黒田節になっている所がいかにも海外版らしい。
発表会場での演題目「情鬼」のシーンも短く編集されているが、バックの音楽はやはり黒田節となる。

アメリカでの配給はA BRENCO PICTURES。オープニングは「THE HUMAN VAPOR」の英語タイトルのみ。クレジットロールが無く、エンディングにアメリカのテレビ映画のエンディングのように人物の映像とナレーションで佐多契子、三橋達也、八千草薫、土屋嘉男 主要4人のキャストが紹介される。 本多猪四郎、円谷英二等のスタッフクレジットは1枚のみ。
なお、水野の吹替とナレーションを担当しているのは、「ブレードランナー」で眼球製作者に扮したジェームズ・ホン。

1962年頃、フランケンシュタインの怪物を中心とした対決企画がアメリカから東宝に持ち込まれているが、この対決企画が、「怪獣大戦争」国内盤DVD収録の土屋嘉男のコメンタリーで語られている"復活したガス人間水野が藤千代を生き返らせるため、フランケンシュタイン博士を探すという、ハリウッドで書かれた「フランケンシュタイン対ガス人間」の台本"だったと思われる。
土屋嘉男は、プロデューサーの田中友幸から聞いた話としているが、この対決企画を元に1963年に、関沢新一によって書かれたのが「フランケンシュタイン対ガス人間」の検討用脚本であった事から、ガス人間と対決させるというプロットはアメリカから東宝に持ち込まれた段階で、すでに出来上がっていたものと推測される。
「ガス人間第1号/THE HUMAN VAPOR」のアメリカでの人気の高さが伺えるエピソードである。

ちなみに、「フランケンシュタイン対ガス人間」の検討用脚本は第1稿でボツになったが、1965年に公開された「フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン」のルーツともなった。(→※こちらもどうぞ)

●日本舞踊の音楽をはじめ、宮内國郎の音楽はすべて別の曲に差替えられている。
●佐野博士が水野の人体実験にかかった240時間は、Two Hundred forty Hours, Ten days and Ten Nights,で同じ設定となっている。
●水野がガス人間に変身する際に左胸に手をあて精神統一する仕草は、外国のファンの間ではおなじみのポーズのようで、シカゴで行われたコンベンションに招かれた際、観客全員が同じポーズをとっていたのを見た土屋嘉男は、それが何の意味だかまったくわからなかった事。
また、「ガス人間」というタイトルがオナラのようでイヤだった事、海外版タイトル「THE HUMAN VAPOR」を気に入っている事が「怪獣大戦争」国内盤DVD収録のコメンタリーにて語られている。

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●初版VHS<TG1176>
1988年(?)東宝
シネスコ版
●廉価再発版(5,500円)<TG4340>
1992年5月1日東宝
HiFi モノラル シネスコ
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SOUNDTRACK-CD GALLERY
●東宝特撮映画音楽全集(5) 「ガス人間第1号」完全盤
オリジナル・サウンドトラック
1995年10月21日<SLCS-5067>
サウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズ

未だ完全な形で発売されなかった東宝特撮映画の音楽を初アルバム化。
人気の高い“変身人間シリーズ”第三弾。
この音楽は東宝特撮ファンにとってまさに宝のようなものだ。」(封入帯より抜粋)

電気アコーディオンを駆使した特長的な音楽は宮内國郎。
空想特撮テレビシリーズ「ウルトラQ」の音楽に流用されたため、一般的には「ウルトラQ」の音楽という印象の方が強い。
サスペンスを盛り上げるスリリングな曲、ミステリアスかつ不気味な曲、そして悲しくも美しい壮大な曲。昭和30年代以降の特撮ファンにとっては、伊福部マーチとともに強く心に刻まれた、まさに"宝物のような忘れがたいもの"である。

ウルトラQにたびたび使われたものは、メインタイトルM-1(1:49)、五日市街道追跡M-2(1:31)。
また、エンディング(終幕の紅蓮)M-28A(2:50)は「ウルトラマン第10話/謎の恐竜基地」24分30秒過ぎのラストを飾る曲としても流用されている。

発売元のサウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズは、1990年頃から1996年頃まで大阪にあったサウンドトラック専門のレコード・CDメーカー並びに輸入元。
読み応えのあるマニア向きの解説書などサントラファンには有名なメーカーだった。
本東宝特撮映画音楽全集CDも現在すべて廃盤だが、市場では結構なプレミアがついているようだ。
ちなみに、東宝特撮映画音楽全集シリーズの他作品としては、「美女と液体人間」<SLCS-5063>、「モスラ」<SLCS-50684>、「マタンゴ」<SLCS-5065>、「電送人間」<SLCS-5066>、「白夫人の妖恋」<SLCS-5068>、「妖星ゴラス」<SLCS-5069>がリリースされていた。(シルバーで統一されたジャケットが渋い。)

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