戦国時代、農民に雇われた七人の侍と、野盗と化した野武士の一団との戦いを中心に描くスペクタクル大作!黒澤明監督作品「七人の侍」。 世界的にもアクション映画の傑作と評価されているだけに、米国やヨーロッパ、アジアでも続々とLD・DVDがリリースされている。上映時間、3時間27分(前半107分、休憩5分、後半95分)、製作費は当時の金額で2億1千万円(現在の金額では約25億円※値段史年表によると約40億円ともいわれる)の超大作、まさに日本を代表する芸術作品である。
●昭和27年12月、熱海の老舗旅館(水口園離れ香月庵)に40日間こもり、「七人の侍」を書き上げた共同脚本の黒澤明、橋本忍、小国英雄の3人だが、その緊迫感たるものは、お茶を運びにきた女中など怖くて声をかけられなかったほどであったらしい。脚本を書き上げたとき、橋本忍、小国英雄の二人は、終わった、出来た、と喜んだが、黒澤ひとり、これからこれを撮らなきゃいけないのかと渋い顔だったという。
●七人の侍それぞれの個性的なキャラクターは、大学ノート数冊にビッシリと書き込まれていた。キャラクター設定がしっかりしているからこそ、いかなる場面でも登場人物がいきいきと動く。キャラクターが物語を進行していくといった典型的な成功例である。特に、勘兵衛が五郎兵衛と共に野武士との対決に備えて作戦を練る様子が克明に描かれるが、沈着にして豪胆、という勘兵衛のキャラクター設定通リの展開で観る者を十分に納得させる。また、黒澤が、勘兵衛ならこう考えるだろうという発想の元に繰り広げられた野武士との戦いであるが、映画で描かれた戦いを見た自衛隊が、アメリカの軍事例にそっくりだがあの戦い方は何かを参考にしたのか?と、黒澤の元に確認しに来たらしい…。恐るべし、黒澤監督。
●台詞が聞き取りにくいという評判の黒澤映画だが、鉄砲を種子島と言ったりするなど、その時代考証に沿った忠実な言い回しがそう聞こえさせるのかもしれない。
●舞台となる農村にふさわしい撮影場所を求め、2ヶ月間探したが見つからず、結局、東京と静岡にまたがる5箇所の異なる場所を使って一つの村として撮影される事となった。 同じ橋を東京と伊豆の2箇所に造り、二つの場所を一つに見せる工夫など、その編集の巧さには驚かされる。
●村人や子供達には多くの素人が起用され、すべてのセットの家がそれぞれの村人に家族として割り当てられ、生活感をリアルにだす事に成功している。野武士に家族すべてを殺された印象的な老婆も近くの老人ホームの素人であった。 また、七人の侍の中でも菊千代と並び人気の高い剣豪、久蔵に扮する宮口精二は、剣道の経験のまったくない素人だったが、映画の中では鬼気迫る剣豪に見えるなど、黒澤の演出力と俳優や素人の使い方の上手さは、この作品でも際立っている。
●当初、71日間の撮影予定が、丸1年たってもまだアップしない状況に、東宝上層部から撮影中止命令がでた。黒澤は、それを見越してわざとラストの合戦シーンを撮影しなかったのだが、途中で良いから編集して観せろという幹部連中に“クライマックスはありません”“雪が降っても私は知りません”などとうそぶいた…。 そして、黒澤は編集作業に1週間かけ、撮影途中までの試写を幹部連中に見せる事となるが、早坂文雄の名曲「侍のテーマ」のトランペットが高らかに流れる中、 菊千代が、屋根の上に旗をたて「来やがった、来やがった〜」と叫ぶシーンで試写はブチッと終わる。 唖然とする幹部連中は緊急会議後、黒澤に「後は存分に撮影してください」と告げる。さぞかし、いい気分であっただろう黒澤…。 しかしその後、すぐに雪が降り積もり撮影続行不可能となってしまうが、この雪がまた奇跡を起こす。当初の予定の雨プラス、黒澤の足の爪が変色するほどのすさまじさだったらしい雪を溶かした寒さと泥とぬかるみが、映画史に残る名シーンを生むのである。まさに映画の神様のマジックであり、このエピソード自体が映画のようである。
上記クライテリオン再発盤DVD<#2>で使われたニューマスターを元としたクライテリオン盤ブルーレイ。 上記東宝盤ブルーレイが甘くボケ気味に感じる程、解像度が高く鮮明。古いモノクロ映像にこれほどの情報量があったのかと驚くほどの高精細映像を実現している。 いささかのデジタル補正くささは感じるものの、それを補って余りある美しいコントラスト表現。同じクライテリオンからリリースされている「用心棒」「椿三十郎」のブルーレイが、コントラストが強くギラギラし過ぎていたのとは対象的に、本ブルーレイは、これぞクライテリオンという極上のクオリティに仕上がっている。
再発盤DVDリリースの際に行われたボイジャー社クライテリオンのテレシネ、レストア作業がよほど素晴らしかったという事だろうが、オリジナルフィルムを使い、Super Hi-Quality BD Master Process FORS systemを採用し、新たにHDテレシネしたというフレコミの東宝ブルーレイと、まさかこれほどまでの差があろうとは…。 まぎれもない最高画質のクライテリオン盤ブルーレイ「七人の侍」。 東宝ブルーレイ視聴時に感じた物足りなさは、ここにはない。
特製デジパック仕様2枚組。BOX、ジャケットのデザインはクライテリオン再発盤DVD<#2>とほぼ同仕様。 国内のブルーレイ・プレイヤーでも再生可能なコードA ※ブルーレイのリージョンコードは世界を3地域に分けている。日本は南北アメリカ・東南アジア・朝鮮半島・台湾と同じコードA、ヨーロッパ・中近東・アフリカ・オセアニアはコードB、中央・南アジア、中華人民共和国、ロシア、モンゴルはコードC。
■本編ディスク ●映像 ・完全オリジナル スタンダードサイズ(1.33:1)収録 休憩(Intermission)5分も収録されている本編3時間26分43秒版 (本編東宝マーク前のTHE CRITERION COLLECTIONマーク及びJANUS FILMSクレジット表示21秒除く) ・ディスク1枚に本編のみ収録、ディスク入れ替え無しで全編視聴可能。 ・現在視聴しているチャプタータイトル付のタイムバーを表示し、音声解説への切替とお気に入りのブックマークが付けられるTIMELINE機能付(ブルーレイのみの機能) ・英語字幕ON/OFF可能。 ポップアップメニュー、チャプター付。 ※日本語字幕未収録 ※レジューム機能付
●音声 ・UNCOMPRESSED MONO(オリジナルモノラル音声※効果音無し) ・DTS-HD MASTER AUDIO(ドルビーサラウンド音声※効果音入り) ・映画研究家David Desser、Joan Mellen、Stephen Prince、Tony Rayns、Donald Richieらによるコメンタリー(ブルーレイのみの音声特典) ※DVD収録と同様、オリジナルモノラル音声は斬殺音等の効果音無し、ラストバトルの種子島(鉄砲)の音と久蔵が倒れるタイミングがズレているオリジナルのまま、91年版リニューアルのドルビーサラウンド音声は、斬殺音等の効果音有り、種子島(鉄砲)の音を修正して久蔵が倒れるタイミングに合わせたもので収録。 ※5.1chリミックスは未収録
■特典映像ディスク ※上記クライテリオン再発盤DVD<#2>と同内容 ●AKIRA KUROSAWA: IT IS WONDERFUL TO CREATE 「黒澤明〜創ると云う事は素晴らしい」(七人の侍メイキングドキュメント 49分10秒)収録、チャプター付 英語字幕付。 ●MY LIFE IN CINEMA: AKIRA KUROSAWA 大島渚監督による黒澤明監督インタビュー「わが映画人生」(1993年、日本語音声、約115分59秒)収録、チャプター付 英語字幕付。 ●SEVEN SAMURAI: ORIGINS AND INFLUENCES クライテリオン・オリジナルドキュメンタリー収録(英語音声、55分12秒) ●TRAILERS AND TEASER 劇場予告篇&特報 ・予告篇(1975年版リバイバル4分10秒) ※東宝DVD・ブルーレイ盤に収録されている1975年版リバイバル予告篇(4分7秒)とは別バージョンで、クライテリオン盤には4分7秒版は未収録。 ・特報 (オリジナル版 音声なし・2分39秒) ※HD画質 ・予告篇(1993年版最後のリバイバル・2分36秒) ・特報 (1975年版リバイバル・33秒) ※ブローアップ ●メイキングスチール集 ●海外ポスターギャラリー ※メイキングスチール集、海外ポスターギャラリーはクライテリオン盤のみに収録の特典で、DVDと収録内容は同じだがHD画質で収録されているので高精細。
■60ページブックレット封入 ※上記クライテリオン再発盤DVD<#2>封入ブックレットのリサイズのみで同内容だが、DVD封入のブックレットに「七人の侍」のスチールと間違えて掲載されていた写真は修正して差し替えられている。(2010.11.14)
6ミリの音楽テープとして残された「七人の侍」の音楽を、映画で使用されている順に収録した完全サントラ盤。解説書付。 ※「七人の侍」の磁気テープには、1954年の完全オリジナルと、1966年の多元磁気版リバイバルプリントを作成するために若干の補正を施して同年2月10日にコピーされたテープが現存。 両者を聴き較べた結果、経年劣化等を考慮しても1966年のコピー素材が良好と判断され、本CD音源として採用されたとの事。(封入解説書より一部抜粋)
「七人の侍」の音楽監督、早坂文雄は41歳という若さで逝去した天才作曲家である。 「会うときは何かいそいそとする程で 恋人同士のようだった」と語る黒澤明。 信頼、尊敬していた盟友の死に黒澤は落胆し、「2人が一生懸命にガチガチやってここまで来たんだ。あの人に死なれてしまって僕など、どうしたらいいのです。」と、10日間泣き通したという。 また、死の直前に取り掛かっていた溝口健二監督作品のハードワークが、結核だった早坂文雄の体に負荷をかけたといわれ、黒澤監督は葬儀の席上で溝口監督を責めたという。なんとも大人げない話ではあるが、黒澤明の当時の狼狽ぶりが伺われるエピソードでもある。
黒澤監督とのコンビで作った作品中、もっとも完成度の高いのが本作「七人の侍」、中でも「侍のテーマ」は特に知られているが、この名曲誕生のエピソードがまた面白い。 撮影の合間、テーマ曲の打ち合わせのため早坂文雄の自宅(祖師谷)を訪れた黒澤は、早坂がピアノで弾いた20以上のスコアをひとつも気に入らなかったという。(早坂は大体こんな曲というラフスコアを300枚書いていた) 困り果てた早坂は、一度ゴミ箱に捨てたものを戻して「これはダメだと思うが…」と前置きしながら弾いてみせた…。 すると黒澤は言った。「これだ!これなら侍のように 勇ましくも哀しくもある!」 と。 名曲「侍のテーマ」は、実は早坂文雄が一度ゴミ箱に捨てたボツ作品だったのである。(※1999年4月11日 日本テレビ「知ってるつもり?!/黒澤明と七人の侍伝説」より一部引用) 早坂の弟子であり、のち「用心棒」などの音楽を担当した佐藤勝は、「そんなうまい話あるのかなぁ」といぶかしく思ったらしいが、これも伝説。嘘のようなほんとの話だ。 このエピソードは海外でも大いに受け、外国の記者からは「これからは、まずゴミ箱を先に探してください。」と切り返されたという。