「サイコ」はサスペンス・スリラー映画 4万ドルを横領し逃げる女、マリオン。 映画前半のサスペンスフルな逃走劇は、マリオンが立ち寄ったモーテルから一転し、非日常的なスリラーへと変わっていく。 そこはベイツ・モーテル、経営者は一見好青年。 モーテル裏の小高い丘に建つ古い屋敷には、口やかましい病気の母親がいるようだ。 「サイコ」はショッカー映画 シャワールームで惨劇が起こり、マリオンは眼を見開いたまま絶命する。 ワンカット一刺しという錯覚を受けるスピーディなカット割り、切り裂くようなバーナード・ハーマンの音楽。息を呑むようなシャワールームの惨劇は恐怖映画史に残る名シーンである。 大胆なカメラワーク、光と影を使った心理的な恐怖に訴えかけるヒッチコックの演出は、古くささをまったく感じさせない。 ちなみに、絶命後のマリオン(ジャネット・リー)の眼。死人なのに瞳孔が開いていないと、眼科医に指摘されたヒッチコック。それではとばかりに1970年の「フレンジー」では瞳孔を開く目薬を使い、死人の眼を再現した。 そして、バーナード・ハーマンの音楽はピクサーの「ファインディング・ニモ」などの映画やバラエティなどで現在でもパロディネタになっている。 「サイコ」はレッドへリング映画 前半の逃走劇、逃走を怪しむ警官、病気の母親、殺されるヒロイン… マリオンの話と思わせておき、いつのまにかノーマン・ベイツの話になっていく。 「サイコ」は予想を事ごとく裏切る、大きなレッドへリング=ミスディレクションによって構成されている。 (レッドへリングについてはこちら) 劇場初公開時は、「シックスセンス」のように口外(ネタバレ)禁止、さらに途中入場禁止とされた。 「サイコ」は精神病を扱った映画 1886年ロバート・ルイス・スティーブンソンによって書かれた小説「ジキル博士とハイド氏」に代表される"二重人格"という精神病を、本格的に扱った最初の映画でもある。 「白い恐怖」「めまい」といった、ヒッチコックが好んで取り上げた異常心理スリラーという題材をさらに掘り下げて描いたものとなる。 ちなみに、1957年に発覚したエド・ゲインの猟奇殺人事件をインスピレーションとした作品としても知られているが、同じく「サイコ」から14年後に作られた「悪魔のいけにえ」<詳細はこちら>(1974年)、30年後に作られた「羊たちの沈黙」(1990年)もエド・ゲインの猟奇殺人事件を題材としているといわれている。 そして、「サイコ」は映画のジャンルとなった 多重人格やストーカーなどの異常心理をテーマとする作品は、その後も数多く作られ、“サイコ物、サイコ・サスペンス物”と呼ばれるようになった。 「サイコ」はヒッチコック61歳、1960年の作品。 前作が「北北西に進路を取れ」<詳細はこちら>(1959年)、次作が「鳥」(1963年)という、この時期のヒッチコックはまさに黄金期。 その発表する作品が、後の映画界に“巻き込まれサスペンス”“動物パニック映画”というそれぞれのジャンルを確立してしまうという凄まじい創造力であった。(2010.01.24)
※ジャケット違い以外、初盤LDとほぼ同仕様
HDリマスター版ブルーレイ、「サイコ」初の1080p フルフレームサイズ(1.85:1)でのリリース。 ユニバーサル・ピクチャーズ世界共通仕様盤で日本語吹替音声、日本語字幕収録。もちろん国内のブルーレイ・プレイヤーでも再生可能(リージョンA・B・C)。 英国盤ブルーレイは通常版とスティールケース仕様(限定版)の2種類でリリース。 2010年5月5日 NHK BS Hi-Visionにて放送されたマスターとはまったく違うピカピカの高画質HDリマスター版。 ブルーレイの高解像度ゆえの高精細は、オスカー候補にもなったジョン・L・ラッセルのモノクロ撮影、白と黒のコントラストが映える夜間シーンも忠実に再現。 そして、圧倒的な映像表現力によるその質感と奥行き。原版の保存状態もよほど良いのだろう、現時点では限りなくフィルムに近い最高画質のソフトといえよう。 初期メニュー画面で、メニュー画面の文字(日本語、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、フィンランド語、ギリシア語、ポルトガル語、広東語、中国語、韓国語、スウェーデン語)を選択可能。 ■本編映像 ・映像/本編オリジナル108分51秒 1080p High-Definition Full Frame 1.85:1 ・音声/日本語吹替(2.0chモノラル)、英語(2.0chモノラル)、英語DTS-HD Master Audio 5.1ch※初収録、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語収録 ・字幕/日本語、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、フィンランド語、ギリシア語、ポルトガル語、広東語、中国語、韓国語、スウェーデン語収録 【日本語吹替音声(ビデオ版)】※DVD収録と同じ →吹替キャストは上記国内盤DVD(UJGD-30356)参照 ・マイ・シーンズ ※お気に入りのシーンをブックマークして再生可能 ・ポップアップメニュー、チャプターリスト、メニュー画面のボタン効果音有り無し選択可能 ■特典映像 ・メイキング・オブ「サイコ」(94分13秒) ※DVD(UJGD-30356)収録と同内容でSD画質だが字幕はクッキリと表示されて見やすくなっている。 →上記国内盤DVD(UJGD-30356)参照 ・巨匠 ヒッチコック:後世への影響 IN THE MASTER'S SHADOW: HITCHOCK'S LEGACY (25分58秒※ビスタ)※初収録【SD画質】 ヒッチコック作品が後の映画作家に与えた影響を各映画人が語るドキュメント。「北北西に進路を取れ」ブルーレイの特典映像に収録されているドキュメンタリー「ヒッチコック・スタイル」と演出が同じ。また、コメントしているウィリアム・フリードキン、ジョン・カーペンター、マーティン・スコセッシらの部屋の背景も同じなので、同時期(2009年)に製作されたものと思われる。 →「北北西に進路を取れ」ブルーレイの特典映像はこちら ・トリュフォーによるヒッチコックへのインタビュー HITCHOCK/TRUFFAUT INTERVIEWS(15分20秒)※初収録 映画監督フランソワ・トリュフォーが(通訳を介して)、ヒッチコックに「サイコ」について訊くインタビュー音声収録。(映像は本編ハイライトとなる) ・公開時のニュース映像(7分44秒) ※DVD(UJGD-30356)収録と同内容、SD画質(※字幕クッキリ) →上記国内盤DVD(UJGD-30356)参照 ・シャワーシーン比較(音楽あり/なし 2分29秒) ・シャワー・シーン:ソウル・バスによる絵コンテ ・プロダクションフォト(※サイコアーカイブ) ※スペシャルコレクションLDの特典映像(静止画)から新たに収録し直したためだろう、トップ画面の右下にコマ送り用の「STEP」表示が残ったままになっている。もちろんこの画面上でリモコンのどのボタンを押しても何の反応もない無用のものとなる。 ・ポスター&広告 ・ロビーカード ・撮影風景 ・宣伝写真 ※上記「シャワーシーン比較」から「宣伝写真」まではスペシャルコレクション盤LD、国内盤DVD(SUD-30356、BUD-30356、UJLD-30356)収録のサイコアーカイブとほぼ同内容。 ・最新技術と迫力のサウンド(9分57秒※ビスタ)※初収録【HD画質】 オリジナルモノラル音声からどのように、DTS-HD Master Audio 5.1ch音声へリミックスしたのか、その過程を、担当したオーディオ・ナミックス社の技術スタッフが語る。 ※新5.1ch音声は、確かにやり過ぎとも思えるぐらい迫力がある。 ・劇場用オリジナル予告編 ※DVD収録と同じ「ヒッチコック案内バージョン」【SD画質】(※字幕クッキリ) ・再公開時(リバイバル)予告編(1分48秒)※DVD(UJGD-30356)収録と同内容【SD画質】(※字幕クッキリ) ・ヒッチコック劇場「兇器」(26分08秒)※特典映像としては初収録【SD画質】 TVシリーズ ヒッチコック劇場 第106話「兇器 LAMB TO THE SLAUGHTER」フル収録。ロアルド・ダール原作・脚本、ヒッチコック自身が監督した1958年の作品。同年「めまい」に出演していたバーバラ・ベル・ゲデスが主婦役で登場。犯行に使った兇器をどのように処分するかをブラックに描いた一編。 一見、献身的な主婦が無邪気かつ不気味に笑うラストシーンのカメラアングルは、「サイコ」のエンディングの原形となったともいわれ、ヒッチコック劇場の中でも傑作「バアン!もう死んだ」と並んで知名度が高い。 ちなみに、2003年4月25日にDVDリリースされた「ヒッチコック劇場 第二集」に本作「兇器」は収録されている。 ・スティーブン・レベロ(「アルフレッド・ヒッチコック&ザ・メイキング・オブ・サイコ」著者)による本編音声解説※初収録 本ディスクの特典として新たに作られた音声解説のようだが、鏡の意味、ヒッチッコックの警官(権力)嫌い、ヒッチコックとパーキンスら役者との位置関係、チェンバース保安官を演じたジョン・マッキンタイアの奥さんがベイツの母親の声を演じた一人ジャネット・ノーランだったという裏話、今では説明くさいと批判される精神分析医がノーマンについて長々と説明するラストシークエンスのヒッチコックの意図など、興味深い話も多い。 ※ヒッチコック・コレクション予告編(1分09秒)、およびスペシャル・エディションDVD2枚組(UNED-25710)の特典ディスク内に収録されている「AFI受賞式にてアルフレッド・ヒッチコックへの賛辞」(15分05秒)と「シネマの巨匠」(33分38秒)は未収録。