「鬼首村」 "おにこべむら"…。
顔の判別が出来ないほど、焼けただれた死体。
仙人峠ですれ違う、死んだはずの老婆。
失踪した多々羅放庵とあばら屋に残る一匹のオオサンショウウオ。
前作「犬神家の一族」にも増した怪奇ムードの中、村に伝承される手毬唄になぞらえて行われていく異様な殺人事件。その殺人の裏には、二十年前の恐ろしく哀しい恨みがこめられていた。
主要な登場人物が手際よく紹介され、クレジットタイトルが表示されるまでの時間は、なんと11分。前作「犬神家の一族」にもひけをとらない鮮やかなタイミングで、村井邦彦の名曲「哀しみのバラード」が響きわたり、モダンなタイポグラフィーのオープニングクレジットが始まる。
※以下ネタバレOKの方のみドラッグ→ 嫉妬と狂った母性愛が悪魔をよびよせ、狂気を起こさせる。
二十年前の夫への恨みを忘れられず、それでもなお、夫を憎みきれない青池リカ(岸恵子)。
心ここにあらずというような素振りや天然の物忘れぶりもみせるが、実はその心の奥で、二十年前の思いを、深く心に刻み、異常なほどの嫉妬心を燃やし続けていたのかと思うと、恐ろしい…。
犯人の動機に大きく焦点をあて、「犬神家の一族」以上の悲哀を感じさせるその展開は、シリーズ最高作との呼び声も高い。
そして、前作にも増して、登場人物の心の機微を丁寧に描く市川崑演出。
特に、実直で誠実な磯川警部(若山富三郎)と、知的で飄々とした金田一耕助の、信頼とも友情ともとれるしみじみとした関係は絶品。
はかなく終わる磯川警部の思い、そして、それを優しく思いやる金田一耕助。
「磯川さん あなたリカさん 愛していらしたんですね」
「え? 何か言いましたか」
汽車の音にかき消された二人のやりとりは、心に染みる名シーンだ。
そして、このラストシーンに逸話が残る。
その質問の答えがホームの柱にあったのだ…
映画公開時から語られてきたこの逸話。実は偶然の産物だったのだが、映画の神様のなんとイキな事か。「望郷」へのオマージュともいわれているフランス映画のような、この詩情豊かなエンディングは、その後、東宝「金田一耕助」シリーズの定番ともなっていった。
加藤武演じる立花捜査主任はもとより、岡本信人(中村巡査)、大滝秀治、三木のり平、その奥さん役、沼田カズ子(※女優さんではなく髪結いのスタッフ)、常田富士男等、脇の登場人物一人ひとりが、物語に、役柄に、見事にはまっているのも見逃せない面白さだ。司咲枝役の白石加代子、いつもの伏せ目がちの演技も怖いし…
(2009.02.22) |