1961年7月8日、後に、明るく楽しい東宝映画の代名詞的なシリーズ作品のひとつとなる、低予算のプログラムピクチャーが公開された。 「大学の若大将」である。 大学の若大将こと田沼雄一は、麻布の老舗のスキヤキ屋「田能久」の一人息子。育ちが良くて庶民的、ハンサムでスポーツ万能、おまけに唄もうまいナイスガイの彼は人に頼まれると嫌と断れない性格ゆえに、さまざまなトラブルに巻き込まれる。 挙句の果てに父親からも勘当されてしまうが、そこは持ち前のノーテンキともいえるおおらかさで、見事に窮地を切り抜ける。しかし、モテモテの若大将を誤解しスネまくったままの澄ちゃんの事が気になり、期待がかかる対抗試合も上の空…。そしていよいよ対抗試合の絶体絶命のその時、誤解の解けた澄ちゃんが駆けつけ「雄一さん!がんばって!」の声に元気百倍!危機一髪の逆転勝利!を呼ぶのであった。
主演はもちろん、永遠の若大将こと加山雄三、当時24歳。父は映画界の二枚目スター上原謙、母も同じくスター女優の小桜葉子。 育ちが良くてハンサム。その上、水泳やスキーなどのスポーツも万能でおまけに音楽も得意という京南大学(※作品によっては大学が違う場合有り)の若大将こと田沼雄一は、東宝の将来のスター候補生であった加山雄三のキャラクターを、そのまま投影させたものであった。
「大学の若大将」は大ヒット!その後全17作も製作される人気シリーズ(「歌う若大将」を除く加山雄三主演作のみ)となるが、その成功の源は若大将・加山雄三のナチュラルな魅力はもとより、若大将を取り巻くレギュラーキャラクター達が生み出す生き生きとしたシチュエーションコメディの熟成によるところが大であろう。これは、大いなるマンネリ作品として後の国民的シリーズ映画「男はつらいよ」にも通じるものである。
そのレギュラーキャラクターの面々だが、まずはシリーズ最大の立役者、この人抜きでは語れない青大将こと石山新次郎(田中邦衛)。 当初は若大将を引き立てるだけの単純なワルの敵役であったが、作品ごとに徐々にその役割が大きくなり、敵役から悪友・親友、名コンビへと成長していく。若大将シリーズ、実は青大将シリーズでもある。 そしてマドンナの割には、きっつい性格の澄ちゃんこと澄子。演じる星由里子自身もこの澄子の性格を嫌いだったらしいが、シリーズのお約束…、「雄一さん!がんばって!」(または「雄一さん!好き好き!大好きよ〜!」)の幾多の名シーンは、この澄ちゃんあってのものといえる。また、シリーズを通じて私生活が描かれた事はほとんど無い。 キャラクター設定はほぼ同じだが、作品ごとに役柄が違いシリーズ5作目以降は名字も変わる。※なお、恋人役はシリーズ第12作「フレッシュマン若大将」から、節ちゃんこと節子(酒井和歌子)に変わる。 また、運動部のマネージャー江口(ほぼ江原達怡演じる)。 若大将の親友で、知的で誠実なマネージャーという印象だが、時たま大ボケをかます…。後に若大将の妹、照子と結婚し、婿養子として「田能久」を継ぐ事となる。 最後に、田沼雄一の生まれ育った麻布(※作品によっては場所が違う)の老舗のスキヤキ屋「田能久」の人々。 「田能久」の元看板娘、雄一の母親代わりでもあり、最大の理解者でもある明治生まれの祖母、おりきちゃんこと、りき(飯田蝶子)。 商業学校出の「田能久」三代目で、一見頑固で分からず屋だが、実はナイーブなお坊ちゃん育ちの父親、大正生まれの久太郎(有島一郎)。 現実的でしっかり者だが兄の雄一を慕う反面、かなり甘えてチャッカリぶりをみせる洋裁学校に通う妹の照子(中真千子)。 以上3人が家族である。ちなみに母親は、戦後まもなく照子を産んだ後になんらかの理由で死去している。
その他、準レギュラーとして登場する面々。大学教授や住職、ハワイの日系人など作品ごとに役柄は違うが、そのほとんどが「田能久」の元看板娘おりきちゃんとの昔の知り合いという間柄で登場する左卜全。 主にシリーズ初期に多く出演し楽屋落ちネタも披露する加山雄三の実父、上原謙。青大将の性格付けが変わった為に新たに敵役として登場させる事となった赤マムシこと張山 (作品によって、赤塚、赤田などの役名/堺左千夫・荒木保夫などが演ずる)。 そして、若大将のクラスメイト、アンパンこと団野京子(団令子)や、お嬢様役などの藤山陽子、ファッションモデル役の北あけみといったお姐ちゃん連中が花を添える。
若大将シリーズは連続としたシリーズではなくそれぞれが趣向を変えたパラレルワールド的作品であり、作品ごとに若大将の取り組むスポーツも変わった。映画が公開されるとその作品で取り組んだスポーツは、部員数が急に増えるという伝説のエピソードも残っている。また、そのスポーツに合わせて劇中の若大将の部屋のインテリアも変わるといった細かなお楽しみもあった。 そして、シンガーソングライターの草分け、弾厚作こと作曲家、加山雄三の忘れ得ぬ珠玉のメロディの数々と、シリーズを重ねることによりスケールアップする海外ロケも映画にグレード感を与え、日本映画の黄金期を支える永遠の若大将シリーズとなった。
1975年、テアトル池袋のオールナイト上映により突如盛り上がった若大将の再ブーム。画面に向かって紙テープが舞い、共に唄うといった異様な熱気に包まれた映画館は、いつの時代の若者にも愛される若大将シリーズの不変の面白さを証明したものだった。 ウソっぽい映画の代表作品として一時期、否定される時代もあったが、エンターティンメントとして素直に映画を楽しむ時代が再び訪れ、ヒーロー若大将の活躍と夢のあるカレッジライフに素直に憧れ若大将を取り巻く人々が生み出す、程好い軽さの心地良いコメディに誰もが酔いしれたのだ。(2005.01.04)
製作・藤本真澄、脚本・笠原良三と田波靖男の3人が、若き加山雄三本人から聞いた話を元にイメージを固めたという若大将こと田沼雄三のキャラクター。「大学の若大将」、それは加山雄三本人の個性を最大限に引き出すために企画された映画であった。 京南大学の若大将、田沼雄一が所属する運動部は水泳部。LDの解説書に、台本には水泳部員達が滝沢、沢田、水野、小川、海津とすべて水に関係ある名前になっているという記載があるが、2作目以降レギュラー出演者の一人となるマネージャー役の江口(江原達怡)も、この作品では多湖という名前である。水泳部のマネージャーだが実はカナヅチという役だが、実際に泳げないようで、映画中盤、若大将にからかわれてプールに落とされるおいしいシーンも、よく見ると代役がこなしている。 当時17歳の星由里子演じる中里澄子は、青大将の父親が重役を務める会社、明治製菓(タイアップ)のキャンディガール。また、青大将の田中邦衛は、まだポスターに名前も無いほどの扱いだが、すでに澄ちゃんにいいように利用される憎めない敵役、青大将を好演している。 当初は単発企画であったが、後のシリーズ作品における、ほとんどの原形をここに見ることができる、まさにダイヤの原石のような魅力を放つ作品だ。 主題歌はデューク・エイセスが唄う「大学の若大将」。その他挿入曲は「夜の太陽」「俺たち河童の子」。
中里澄子は、銀座の店で働くお針子で気の強い性格の片鱗を見せ始め、また青大将も澄ちゃんへの乱暴や、得意の構えのみの空手とその後の捨て台詞など、2作目にしてすでにシリーズになくてはならない存在感をだし始めている。 余談だが、当時の田中邦衛は劇中では金持ちのドラ息子役だが、実際はかなりの貧乏生活で、よく加山雄三に食事をおごってもらっていたそうだ。現実は映画の中とは逆というのが面白い。また田中邦衛が当時住んでいたアパートに加山雄三が立ち寄った際、思わず発した「面白い所に住んでるね〜。」の一言に、田中邦衛はかなり傷ついたそうだ。加山雄三、若大将そのまんま…。
「田能久」の面々も、そのキャラクター付けがはっきりしてきたのが本作。特に、若大将の頼まれたら嫌といえない性格は、祖母のりき譲りだという事がわかるエピソードや、シリーズ後半で見せる若い娘に惚れやすい久太郎のイメージを彷彿させる勘違い縁談話のエピソードなども織り込まれ、実に楽しい。 また、前作の澄ちゃんと知り合うきっかけとなった、バスの中のチンピラ二人組(中山豊/桐野洋雄)と「ノースボール」の先輩コック(堺左千夫)にからむチンピラ二人組は同一人物。 クライマックスのボクシングの対抗試合の相手は、珍しく西北大学ではなく城東大学。ちなみにDVDの解説書に記載があるが、82分40秒過ぎのボクシングの対抗試合場で京南大学の校歌が歌われるが、これは、後にLD化の際に特典CD(詳細はこちら→)となったものの原形。ただし城東大学の校歌と一緒になっていて非常に聞き取りにくい…。 LD巻末には「銀座の若大将」の予告篇付。予告篇内の、若大将が試合前の減量中にも関わらず「田能久」でビフテキを食べようとしてりきに止められるシーンは、本編とは別テイク。 主題曲はテーマ曲のみ。挿入曲は「夢をえがいて」「星空」。
京南大学マラソン部のキャプテン田沼雄一は、今回も水上スキー、モーターボートなどで大活躍。そして若大将の妹、照子とマネージャー江口の恋も描かれるが、江口の「田能久」への婿養子入りを暗示させる為か、本作のみ父親の久太郎も、りきの実子ではなく婿養子という設定になっている。 若大将は大東実業(おなじみ八重洲の大和證券ビル)へ就職が決定。澄子との恋も実る予感を残してのハッピーエンドとなり、「大学」「銀座」と続いた若大将シリーズは本作「日本一の若大将」により、シリーズ三部作として一応の完結を見る事となる。 中里澄子は運動具店メトロスポーツ(当時、実在していたらしい)の店員役。親友となってしまった青大将に代わり本当のワル赤マムシ、張山(堺左千夫)が登場するのも本作から。また卜庵(ぼくあん)和尚役の左卜全、テアトル池袋のオールナイト上映では登場した瞬間にドッと映画館内が沸いたものだが、お約束のコンパギャグとからめた味のある演技は大いに笑わせてくれる。 「ホ、ホ、ホ〜、俺は〜若大将、坊や育ちだけ〜れど 甘くみるなよ 啖呵もきるぜ〜♪」と加山雄三が歌う主題歌は「日本一の若大将」(青島幸男作詞・中村八大作曲)。加山雄三自身は、日本語の歌を唄うのに、かなりの抵抗感があったそうだが、思わず口ずさんでしまう覚えやすいメロディーとインパクトある詞は、初期若大将の中でも特に有名な曲として知られている。他の挿入曲は「ひとりぼっちの夜」「青い月影」。
前作「日本一の若大将」で完結した若大将シリーズが1年ぶりに帰ってきた。 今回は前3作を総括し、さらにスケールアップさせた内容でシリーズ初の海外ロケ作品として製作された。 ※ちなみに、この時のハワイロケはパンナムとのタイアップで本作の他に「社長外遊記」「ホノルル・東京・香港」(千葉泰樹監督)の2作品が同時にハワイロケにて製作されている。
若大将は京南大学のヨット部キャプテン。中里澄子は化粧品メーカー美粧堂の宣伝部に勤めるBG(ビジネスガール)役。※BGは今で言うOL(オフィスレディ)の事。和製英語のBG(ビジネスガール)は、米国では売春婦の意味もある事から1963年9月にNHKにより放送禁止用語となった。 青大将はいつものように物語を進行させる重要なジョーカー役を熱演し、お約束の海落ちシーンも見せるが、マネージャー役の江口は泳げない江原達怡に代わり本作のみ二瓶正也が演じている。 また、澄ちゃんに乱暴しようとする赤マムシの赤塚(堺左千夫)が、迫力ある悪役として再登場している。 主題歌は加山雄三が歌う「ハワイの若大将」。挿入曲は「HONKY TONK PARTY」「DEDICATED」(「恋は赤いバラ」英語バージョン)、「SWEETEST OF ALL」「ラブリー・フラ・ガール」。主題歌以外のすべての挿入曲は、弾厚作こと加山雄三(弾厚作、加山雄三の尊敬する作曲家、團伊玖磨と山田耕筰から命名)によるものであり、後に若大将シリーズの大きな魅力のひとつとなるオリジナルソングが初めて使われた作品でもある。
この後、若大将作品は加山雄三が黒澤明監督作品「赤ひげ」の出演に専念する為、2年間お休みとなる。加山雄三は「椿三十郎」(詳細はこちら→)に続いての黒澤明作品への出演(江原達怡も出演)だが、今回の「赤ひげ」は準主役の保本登役。黒澤は加山雄三の自然体の演技を、かなり気に入っていたようで映画の完成度の高さと共に、加山雄三の俳優としてのキャリアを高める事ともなった。 また、加山雄三自身も役者という職業に興味がわかず、いつ辞めようかとばかり考えていたが、黒澤映画への出演をきっかけに映画に対する情熱に目覚めたとも回想している(「赤ひげ」撮影中、本番で居眠りをしてしまうという「日本一の若大将」の座禅のシーンと同じような事をしでかしたらしいが、やはり若大将そのまんま…)。 そして2年後、満を持してシリーズ新作「海の若大将」への復帰を果たすが、この2年間の加山雄三の役者としての成長と、ドル箱シリーズとしての若大将作品の製作側の期待がピタリとはまり、若大将シリーズは真の黄金期へ突入する事となる。
シリーズ初期3部作のおっとりとした雰囲気は消え、おなじみの「田能久」の面々の息の合ったやりとりもテンポよく、グッと現代的になり心地良さを増した。 青大将もさらにオーバーアクトとなり、再び澄ちゃんを乱暴しようとするなどのお約束はもとより、引きの画面でも小ネタを随所に披露している。 また、スーパーマーケットのレジスター役の芦野澄子(本作から名字が変わる)こと澄ちゃんも絶好調!ヨット上(加山雄三の初代光進丸)で幽霊騒ぎを起こす元となる強引な手口、青大将をアッシー君代わりにしかも無免許のまま暴走させ、挙句の果てに警察に捕まった青大将の「行ってきます。澄ちゃん…」の言葉に間髪入れずに返す言葉など、大いに笑える。 ラストは「ニッポン無責任時代」とかぶっているが、古沢憲吾監督にしてみれば無責任男の平均、若大将の田沼雄一、どちらも型破りのスーパーヒーローという事なのだろう。 主題歌は加山雄三が歌う「海の若大将」。挿入曲はテープレコーダーでの多重録音の演奏も見せる「ブーメラン・ベイビー」、50万枚の大ヒットをとばした加山雄三のオリジナルデビュー曲「恋は紅いバラ」、寺内タケシとブルージーンズをバックに歌う「君が好きだから」。挿入曲はいずれも弾厚作こと加山雄三のオリジナル曲だ。 パーティ会場にて加山雄三のバックで演奏する寺内タケシとブルージーンズのメンバーには、加瀬邦彦の姿も見られるが、この若大将とブルージーンズの豪華な組み合わせは、次作「エレキの若大将」にて爆発する事となる。 ※東宝は労働争議の影響で製作体制に支障をきたし、本作は関西の宝塚映画で製作された。その為、そのほとんどは関西で撮影されたが、古澤監督は東京に店を構える「田能久」という事を強調するため、一目で東京とわかる浅草へ「田能久」の場所を移してしまった。
「田能久」の場所は、いつも通りの麻布に戻ったようだが不況のあおりを受けて経営難に陥りつぶれてしまう。最終的には、若大将がそのピンチを救うというドラマもあるのだが、やはり何といっても本作の見所は、タイトル通り、エレキを弾き、歌いまくる若大将のカッコ良さに尽きる。 アイビールックも決まり、今見てもまったく色褪せていないのが凄い。ヘリコプターで試合にかけつけるなどもビートルズ顔負けのカッコ良さだ。 当時の日本のエレキブーム、あのテケテケテケは、もちろんベンチャーズの影響によるものだが、1965年当時のイギリス・アメリカではビートルズの全盛期。 星野澄子こと澄ちゃんが働くリード楽器店の店内にもビートルズの写真や、「HELP!」のレコードが見られるが、当時、外国と日本の音楽情勢にはまだまだ相当なタイムラグがあり、ビートルズは、熱狂的なファンを捉えつつあるものの、ちょっと変わったアイドルグループ的存在にしか過ぎなかった。 ジェリー藤尾扮する電気ウナギ(赤マムシではない…)の赤田がマッシュルームカットの不良バンドのリーダーとして登場するのも、このような背景があるわけだ。 そして、このエレキブームは翌1966年6月のビートルズ日本公演により、GS(グループサウンズ)ブームに変わりゆくのであるが、自分達で曲を作り演奏して歌うというビートルズと同じスタイルの加山雄三は、ベンチャーズというよりもむしろビートルズに近いミュージシャンであった。その意味からも「エレキの若大将」は初期ビートルズ映画に匹敵する日本の音楽映画であるといえよう。
劇中の若大将のバンド名は「石山新次郎とヤングビーツ」(資金力に物を言わせた青大将がバンドのリーダー)。 バンドの助っ人として参加する蕎麦屋の出前持ちの隆(たかし)役は、当時、ギターの神様といわれた寺内タケシ(LDジャケット参照)。寺内タケシは挿入曲のアレンジや、バンドの演奏など実質的な音楽監督も兼ねていたようだ。 ドラムは実際に初代ランチャーズのドラマーだった二瓶正也(後にイデ隊員となる) 。 そして、実際に弾いているかどうかは怪しいが、サイドギターは青大将、ベースは黒沢年男である。 石山新次郎とヤングビーツが出演するGO! GO! エレキ合戦(勝ち抜きエレキ合戦ではない)の司会は、今では親分肌のプロデューサーとして日本ロック界に君臨する御大、内田裕也。 しらじらしく「どうです、あがりましたか?」とインタビューする内田裕也に、「も〜、でられたから感激です…」などと照れくさそうに答える寺内タケシ。観客席から笑いも聞こえるが特別に笑わそうとしているシーンではないが、逆にそれがとても可笑しい…。 GO! GO! エレキ合戦で、電気ウナギ赤田の策略により窮地にたたされた若大将が突然歌いだすシーンは何度見てもカッコいいが、若大将がプレイしている白いモズライトのギターはベンチャーズのノーキー・エドワーズからプレゼントされたものだ。 また加山雄三の一目惚れだったという現夫人、松本めぐみとの出会いなど話題にも事欠かない映画でもある。
ちなみに現在では信じられない事だが、当時の日本ではエレキを弾くことは不良であるという考えがあった。本作公開の1965年のエレキブームで中心的役割を担った寺内タケシと加山雄三が、多少なりともその不良のイメージを払拭する事に貢献した。 しかし、この後、ザ・タイガースやスパイダースなどのGSブームを経た7年後の1972年、ロック=不良というイメージを逆に利用し、衝撃的なデビューを果たした矢沢永吉率いるキャロルまで、日本のエレキ、ロックの根底に流れるのは常に不良のイメージであったのは否定できない事実だ。
映画巻末に特報として次回作の予告編が流れ、若大将=加山雄三ブームはいよいよ頂点を極める。 併映は「怪獣大戦争」。加山雄三は、ゴジラ映画と若大将はよく同時に公開されていたとコメントする事もあるが、他は「マタンゴ」「フランケンシュタイン対地底怪獣」のみで純粋なゴジラ映画との同時上映は本作1回のみである。 タイトル曲として流れるインストゥルメンタル版と、エレキ合戦で歌われる「夜空の星」。 星由里子とのデュエット版、「変わらな〜い、いつまでも〜」の部分がレコードとはメロディ違いの数バージョンを聴くことができる珠玉の名曲「君といつまでも」。 ※戦場ヶ原で二人で唄うシーンは、澄ちゃんが初めて聞く歌にも関わらず、突然一緒に歌いだすというミュージッククリップのような不自然さに納得がいかなかった加山雄三が、わざと不機嫌に唄っている(プラス寒かったからという説もある)。また、星由里子はそれを知らず、自分の唄が下手だから加山雄三が怒っていると思っていた。 他「ブラック・サンド・ビーチ」「ランニング・ドンキー」などが劇中で使用されている。
監督は「海の若大将」に続いて2度目の古沢憲吾。ローマのレストランで、ショーに飛び入り出演し、いきなり日本語で歌いだすという相変わらず大胆な演出を見せる。また、「田能久」はお気に入り(?)の浅草へと移転している。 「海の若大将」では「海で変な事をする奴は、許さないぞっ」の若大将の台詞が本作では「山で変な事をする奴は、許さないぞっ」に、そのまま変わっているのも古澤監督としてはシリーズ2作目のお遊びであろう…。 加山雄三のスキーの腕前はすでに有名だが、マネージャー江口役の江原達怡もスキーでは加山雄三に負けず劣らずの腕前だ (泳げないが…) 。 パリからやって来たリシェンヌ(イーデス・ハンソン)に久太郎が徐々に好意を寄せるドタバタ振りなど、アチャラカ喜劇(※エノケン、由利徹、三木のり平などを代表とする大正・昭和時代に浅草を中心に発展した軽演劇)でつちかった有島一郎の芸も一段と冴え、おなじみ赤マムシの赤田(荒木保夫)も登場。オリンピックで史上初の三冠王に輝いたスキーヤーのトニー・ザイラーも特別出演している。 また、ブルージーンズ(寺内タケシ抜き)が3作連続の出演で若大将のバックバンドをつとめている。 前作では英語詞のままであった「ランニング・ドンキー」に安井かずみの日本語詞がついた「走れドンキー」を冒頭に、レコード音源と同じメロディの「君といつまでも」(「帰ってきた若大将」で坂口良子が映画館で見る回想シーンがこの場面)、「ブライト・ホーン」「夕陽は赤く」「モンテ・ローザ」「スキー・ア・ゴー・ゴー」「蒼い星くず」「クレイジー・ドライヴィング」などのヒット曲が劇中に使用されている。 新盤LDは、オリジナル4chステレオ音声を2chステレオ音声にリミックスしたシリーズ唯一のステレオ収録版。DVDには製作当時のオリジナル4ch音声がそのまま収録。