サッカー全日本学生選抜香港遠征の壮行会で、ワイルドワンズがバックをつとめ歌われる名曲「旅人よ」のミュージッククリップは、ビートルズ映画を彷彿させる出来栄えだ。このシーンで使われているテイクは、ワイルドワンズの加瀬邦彦がバックコーラスで参加しているレコード音源だが、映画後半、若大将がサッカーの練習後、夕陽をバックにギター1本で歌うテイクは映画オリジナルの音源だ。
「エレキ」「アルプス」などではブルージーンズのメンバーとして出演していた加瀬邦彦だが、本作では元祖湘南サウンド、エバーグリーン「思い出の渚」(作詞:鳥塚繁樹/作曲:加瀬邦彦)で知られるザ・ワイルドワンズとして出演している。
ちなみに、加瀬邦彦がブルージーンズを脱けたのはビートルズの武道館公演の66年6月以前。ブルージーンズとして、ビートルズの前座に出演するよりも、客席からビートルズを見たかったというのがその大きな理由だが、自分たちで作詞作曲し演奏して唄えるビートルズのようなバンドを結成したいと思っていたのは間違いない…。
グループ名"ザ・ワイルドワンズ"は、加山雄三が名付けたものだが、後に沢田研二の「危険なふたり」「TOKIO」などのヒット曲を作曲し、一躍ヒットメーカーとして大成した加瀬邦彦の才能をいち早く見抜いた加山雄三は、加瀬邦彦を弟分のように可愛がっていたようだ。
また、今となってはレトロチックな歌謡ショー的シーンではあるが、香港での澄ちゃんとの一夜のデートで唄われる、加山雄三独特の照れながらのセリフ入りの「夜空を仰いで」(※間奏のセリフは映画オリジナル)。
香港の街並みをオープンカーでドライブするシーンで使われ、ランチャーズをバックに加山雄三が英語で唄う「I
FEEL SO FINE」。作詞・作曲・編曲、弾厚作のロックンロールナンバーだ。
香港で知り合った娘・美芳の新帝劇名店街の中華料理店で、飛び入り出演した若大将が演奏するインストゥルメンタルナンバー「フォー・オクロック」。加山雄三の奏でるテスコの12絃ギターのきらびやかな音色が印象的な曲だ。
さて、本編だが、本作では京南大学サッカー部に所属する若大将。
スポーツ万能の加山雄三も、団体競技、特に球技はあまり得意ではないようで、試合で見せるボール運びなどは、なんともぎこちない。
また、本作の若大将は、岩内克巳監督の演出の狙いなのであろうが、仁科澄子、澄ちゃんとの恋のすれ違いに、いつも以上に悩み、元気がない。
まあ、それはそれで、夕陽をバックに歌う「旅人よ」などのミュージッククリップに、感傷的なシーンとして、うまく生かされているのだが、映画全体として見ると若大将にいつもの覇気が感じられないのだ。
香港の一流レストランの娘、林美芳(陳曼玲、チェン・マンリン:キャセイ社→こちらもご覧ください。)とのロマンスも、香港で人気の宝田明演じるフィアンセ、呉隆の突然の登場で、若大将フラれる的なオチ。引っ張るだけ引っ張って、これ?的な展開も若大将と澄ちゃんの恋のすれ違いを解消するためだけの唐突な印象で、どうにも中途半端だ。
実際、映画を盛り上げているのは青大将で、若大将が元気のない分、青大将のいつものわがままたっぷりな元気の良さが特に目立ち、「僕のパパ、社長なんだ!」「面白くね〜よ」「パパ…、僕はこんなに苦労しているよ」などの迷セリフも絶好調だ。
また、すでにファンにはおなじみだがシリーズ第12作「フレッシュマン若大将」から、澄ちゃんの後を受けて恋人になる、節ちゃんこと節子役の酒井和歌子がスチュワーデス役で出演。
試験前にノートを貸してくれるといった、若大将の心強いクラスメート、(シリーズを通してのキャラクターである)悦子役には前田美波里が扮している。
澄ちゃんが勤務する銀座坂本宝石店のボンボン専務が、女たらしの弱い赤マムシ的な存在で登場。子犬を抱いて登場するシーンはマンガチックでなんとも可笑しい。
澄ちゃんの同僚(店員B・資料によると光子)には、後にウルトラ警備隊のアンヌ隊員になる菱見百合子(当時は菱見地谷子)も出演。
りきおばあちゃんの悩ましいチャイナドレス姿も見られる若大将シリーズ第8作だが、正月公開の本作を含め、以降「南太平洋の若大将」「ゴー!ゴー!若大将」と、1年に3本ものシリーズ作品が製作される事となり、東宝のドル箱、若大将シリーズはいよいよ最盛期を迎えるのである。(2005.09.11) |